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『Lucky Bang Horror』

 1枚の風景写真があります。
 写真に写る景色は例えば、山あいの小さな村。
 どこか遠い、日本ではない北の国の村です。四方を山に囲まれていて、村自体もなだらかな斜面の途中にあります。まるでふかふかの絨毯のような芝生と、濃い緑色をした針葉樹林が、午後の陽射しを受けて柔らかくそよいでいます。そしてその草木と草木の間に、ぽつんぽつんと、白い壁をした古い家が建っています。家と家は2軒以上並んで建つことはありません。1軒ずつ、草木の緑の合間に、母に寄り添う子供のような佇まいで建っています。
 この風景の中に、行ってみたいと思います。行くことができれば、と思います。

 1枚の風景写真があります。
 写真に写る景色は例えば、海が一望できる小高い丘の上に建つ、小さな家。
 その家の庭で何人かが、水平線に沈む夕日を眺めています。皆ビールを手にしていて、ある者はデッキチェアに寝そべりながら、またある者は直接地面に腰を下ろし煙草を吸いながら、ぼんやりと、休日の終わりを名残惜しんでいます。彼らは会話をしているようには見えません。しかし言葉を介さずにいるからこそ、かえって空気は濃密に共有されているように見えます。
 この風景の中に、行ってみたいと思います。行くことができれば、と思います。

 ・・・その風景の中に、本当に行けたとしたらどうでしょうか。憧れていた風景の中に、もし本当に行けたとしたら、何を思うのでしょうか。


 おかげさまでtheatre project BRIDGEも『Lucky Bang Horror』で8回目の公演となりました。次の次で、ついに10回目の公演です。今こうして劇場でみなさまとお会いできたことを思うと、今日まで劇団を続けてきてよかったと、本当に思います。
 6年前、僕らは退屈な日常から脱け出せる、非日常な、憧れの場所としてtheatre
project BRIDGEを旗揚げしました。当時僕は19歳、ノア役の渡邉優子は高校2年生で照明の手伝いをしていました。
 そして今、僕は25歳。BRIDGEは既に非日常ではなくなりました。

 憧れの風景の中に行くことができた僕は、きっと幸福を感じ、満ち足りた気持ちになるでしょう。
 山あいの村の緑の中を歩きながら、緩やかな時間の流れに心地よく抱かれるでしょう。気の合う仲間と晩夏の夕日を眺め、『シーサイド・ウーマン・ブルース』なんかを聞きながら、ビールの酔いと戯れるでしょう。
 けれどやがてその幸福な時間は終わります。村も、丘の上の小さな家も、その場所にいればいるだけ、最初に感じた満ち足りた気持ちは、いつの間にかやせ細っていくのです。
 そうして、僕は、次の風景写真を見つけてしまうかもしれません。憧れの風景の中で、さらにその次の憧れの風景写真を見つけてしまうかもしれません。

 BRIDGEを続けること。6年間、僕らにとってただそれだけが試練でした。
 来年も、再来年も、僕らは舞台に立ち続けようと思います。
 憧れの風景写真と、そして今いる場所と、その2つの間を絶えず揺れながら、それでも。

 本日はご来場いただき、本当にありがとうございました。
 またお逢いしましょう。
 

| 2006,12,01,Fri 22:14 | theatre project BRIDGE | comments (x) | trackback (x) |

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