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『クワイエットライフ』

theatre project BRIDGEは旗揚げしてから4年間を学生劇団として過ごしました。
公演の打ち上げはいつも、僕らがアトリエと呼んでいた、舞台美術の作業場でした。
千秋楽の夜、アトリエの床一面に敷きつめられた新聞紙の上には、安いスナック菓子と、メンバーのお母さんが差し入れてくれた手料理が並びました。
狭いアトリエは、体育座りをしないと全員が入りきりませんでした。
勢いよく乾杯したものの、数ヶ月に及ぶ稽古と本番を終えた僕らの身体は、ほんの少しのアルコールですぐにふらふらになりました。
飲み始めて1時間もすれば、酔っ払った誰かがペンキの缶をひっくり返して大騒ぎをし、誰かは大声で歌い始めて近所から苦情をもらい、誰かはすでに毛布にくるまっていびきをかきました。
僕は、この光景がいつまで続くのかを考えていました。
酔いを醒まそうと外に出れば、道の真ん中で大の字になって寝ている奴がいて、その隣では空き缶を煙草の吸殻でいっぱいにしている奴がいました。
耳をすませば、遠くに東海道線を走る貨物列車の音が聞こえました。
僕はいつも、この光景がいつまで続くのかを考えていました。

今年、当時のメンバーと、地元でお酒を飲む機会がありました。
すでに大半が実家を出て、東京や地方で暮らすようになっていましたが、その日は偶然、特に約束をしていたわけでもないのに、かなりの人数が集まりました。
おでん屋の狭い座敷で、僕らは当時のように肩を寄せ合って座り、味付けの濃い大根や牛すじを奪い合い、焼酎をお湯で割りつづけました。
誰かが会社で昇進したと言えば乾杯し、誰かが結婚の報告をすれば歓声を上げました。
僕は幸せな気持ちでいっぱいになりました。
夜中の2時に店が閉まり、吐きそうになりながら外に出れば、昔のように誰かが道の真ん中で、歌を歌っていました。
相変わらずの汚い歌声を、みんなは当時と同じように罵倒しました。
僕も負けまいと歌いました。でも、舌が回らず、ちっとも歌になりませんでした。
改めて、あのアトリエでの時間が、再び訪れることはないだろうと僕は思いました。
僕らの人生は、もう二度と重なり合うことはないだろうと思いました。
でも、僕は幸せな気持ちでいっぱいでした。

本日はご来場いただき、本当にありがとうございました。
おかげさまでtheatre project BRIDGE は9回目の公演を迎えることができました。
来年の11月、10本目となる作品とともに、僕らはまた劇場で、あなたをお待ちしています。
旗揚げして7年、僕らはずっと元気でした。
来年お会いできるその日まで、どうかあなたも、元気でいてください。

みんなと別れ、まだ少し酔ったまま、僕は始発列車に乗り込みます。
7人がけのシートの端に座って、イヤホンを耳に当てます。
やがて列車は夜明けの中を、ゆっくりと動き始めます。
僕はたまっている洗濯物のことを考えます。
新しい一日が始まります。

| 2007,11,23,Fri 14:00 | theatre project BRIDGE | comments (x) | trackback (x) |

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