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『アイラビュー』

 22時になると先生が消灯時間を告げに来ました。僕らは聞き分けのいい生徒のフリをして、テレビを消して布団を敷き、部屋の明かりもちゃんと消して、冷えたシーツの上に体を横たえます。
 しかし、静寂は一瞬で破られます。ジャージと布団が擦れるシャカシャカした音が響きます。全員が布団をかぶったまま、イモムシ状態で部屋の中央に集まる音です。そして、誰からともなく口火を切ります。
 「じゃ、順番に好きな人言ってこうぜ」
 劇中の台詞にもあるのですが、修学旅行の夜というのはどうしてああもピンク色に染まるのでしょうか。明け方までに話した内容を総合すると、「恋の話9:その他1」くらいだったろうと思います。なかには、話題が恋の話から外れると眠って、再び恋の話に戻ると起きる、「省エネ」な奴もいました。
 恋の話をする時間はいくらあっても足りませんでした。1泊目の京都では話が終わらず、続きは2泊目の奈良に持ち越されました。歴史の名所も貴重な文化遺産も、僕らのエネルギーを鎮めることはできませんでした。僕らは肝心の恋愛そのものを、まだしたことがありませんでした。だからこそ、僕らの想像力は無尽蔵でした。
 やがて、みんなにも彼女というものができて現実の恋愛が始まると、例えばキスの仕方であったり、喧嘩をしたときの仲直りの仕方であったり、実践的な話が話題の中心となり、それはそれで僕らの興奮はヒートアップしました。彼女ができたと言えばそいつを囲んで夜通し祝い、彼女にフラれたと言えばみんなで海に集まって慰めました。
 
 あれから10年以上が経ちました。
 自分や劇団のメンバーのことを考えれば、相変わらず今でも僕らは恋や愛に右往左往している気がします。ただ、10代の恋愛が「好きか嫌いか」だけで語れたのに対して、20代の恋愛は「他人とどう関わっていくか」という命題に収斂されるものへと変化しました。仕事や結婚や出産といった現実的な問題を前にすれば、好きなのに、いえ、好きだからこそ、孤独を埋めてくれる存在が、新たな孤独を生む存在でもあることを知りました。恋愛が徐々にシビアになってきたからこそ、10代よりもむしろ今のほうが、僕らは恋や愛に右往左往している気がします。
 30代、40代の恋愛が前途に待ち構えています。今度は何がどう変わるのでしょうか。いくつになっても恋の始まりは新鮮で、失恋の悲しさは変わらないのでしょうか。もし、これから先も恋愛が、人生を前向きにする力を失わなければ、いつかきっと、僕らは30代、40代の『アイラビュー』を上演したいと思います。

 本日はご来場いただき、本当にありがとうございました。
 おかげさまでtheatre project BRIDGEは、ついに10回目の公演を迎えることができました。
 次回公演は、ずっとやりたかった、ロックをテーマにした音楽劇です。タイトルは『七人のロッカー』。この作品とともに、僕らはまた来年、劇場であなたをお待ちしています。
 旗揚げして8年、僕らはずっと元気でした。
 来年お会いできるその日まで、どうかあなたも、元気でいてください。

| 2008,11,22,Sat 14:00 | theatre project BRIDGE | comments (x) | trackback (x) |

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