ロックマニアのおじさんと幼い声の女の子
愛嬌たっぷりの直球ギターポップ

 初めて聴いた時、「ギターポップ」という言葉のまさに典型のようなバンドだなと思った。なんだか好きなのか嫌いなのかよくわからない言い方だが、もちろんめちゃくちゃ好きってこと。比較的最近知ったバンドなのだが、「こういうのが聴きたかった!」と一目ぼれしてしまった。

 スコットランドのグラスゴー発のハッシーズ。この『ウィ・エクスペクテッド』は彼らが2005年から06年にかけてリリースした初期3枚のシングルを基に編集した8曲入りミニアルバム。1曲1曲の洗練具合もさることながら、楽曲のバリエーションの多さに驚かされる。パンクからレゲエ調、ボードヴィルまでと実に幅広い。

 メンバーは「この曲はスミスっぽいでしょ」「この曲はポリスにインスピレーションを受けて作った」などと、あっけらかんと楽曲のルーツを語っていて、ロックマニアが自分のレコードコレクションを披露するような、そういう趣味的なところが、なんというか心地いい。楽曲のバリエーションの幅広さは、マニア心が発揮された結果なのだろう。

 ハッシーズのメンバーは6人(その後入れ替わりがあり現在は5人体制)。中心はボーカルのフィリ・オルークと、ギターのジェームス・マッコール。ハッシーズはこの2人によって作られた。フィリは結成当時21歳で、本格的なバンドはハッシーズが初めてだったらしい。一方ジェームスはすでにスーパナチュラルズというバンド活動していた(このバンドも素敵!)歴としたプロのバンドマンで、他のメンバーも彼のツテで加入した熟練のミュージシャンばかりだった。まるで、ロックファンのおじさん達のところに女の子が一人迷い込んだよう。だが、おじさん達が作る60年代、70年代の匂い薫るレトロな曲を、女の子フィリが幼さの残る声で歌うという、この微妙に“合ってない”感じが、ハッシーズのおもしろさでなのである。

 ただし、冒頭述べた「ギターポップの典型」という形容は、このちぐはぐなキャラクターを指して言っているわけではない。ハッシーズの持つポップネス、それは彼らの曲が持つ「歌」としての存在感である。1度聴けばもう口ずさめてしまうような、いやもっと言ってしまえば初めて聴いてもその場でハミングできてしまうような気にさせる、非常にシンプル且つハッキリした歌メロ。そしてその強いメロディを乗っける、これまたシンプルなギターとベースとドラムと鍵盤。フィリの声とレトロなサウンドとのズレが生きるのも、メロディとアレンジ双方の輪郭がくっきりしているからだ。目新しさはどこにもないけれど、そのかわり全てのギターバンドのもっともプリミティブな姿がここにあるのだ。

 何を「ポップ」と感じるかは主観的なもので、定義づけたり意味を説明したりすることはできないのだけれども、僕個人はビートルズを父に、サイモン&ガーファンクルを母にして育った人間なので、メロディの立った、歌としての志向性のある楽曲にポップネスを感じるのである。

 ハッシーズは本作リリース後、08年にはファーストオリジナルアルバム『スーパー・プロ・プラス』をリリース。これもかなりおすすめです。


<ウィ・エクスペクテッド>

<タイガー>

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