「チコの実」って
どんな味なんだろう

 先週の「金曜ロードショー」で『風の谷のナウシカ』を観ていたら、子供の頃に観た記憶が重なって、いろいろなことを思い出した。例えば王蟲の黄色い触手が子供の僕にはスパゲッティに見えて仕方なかったことや、腐海の深部に溜まった砂がコーンポタージュの素に似ているなと思ったこと。「“チコの実”って一体どんな味なんだろう」と興味津々だったこと、などなど。・・・こうやって書いてみると、食い意地が張ってる子供だったみたいでイヤだなあ。

 あとは、音楽がものすごく好きだった。もちろん今でもグッとくる。メインテーマを聴くと相変わらず胸がいっぱいになるし、<メーヴェとコルベットの戦い>が流れると鳥肌が立つ。そういえば、<ナウシカ・レクイエム>を歌っていた久石譲の娘は、ついこないだ歌手デビューしましたね。もう30歳過ぎの立派な大人になっていました。

 とにかく、子供の頃から何十回と、それこそビデオテープが擦り切れるくらいに、台詞を全部覚えてしまうくらいに観た映画である。ワンシーン、ワンカットごとに思い入れが詰まっていて、久しぶりに観たらそれが一気に噴き出してきた。単なる懐かしさを超えた、胸の奥に炎が上がるような感覚だった。

 同時に、大人になった今の目で観ても優れた映画だと改めて実感した。腐海をはじめ背景美術は四半世紀前の作品とは思えないほど美しいし、王蟲の造形や動きの表現などは未だに驚かされる。衣装やメカなど、小道具一つひとつに固有の文化・歴史が感じられるところも素晴らしいし、他のアニメにはない強烈な世界観がある。

 だが、このように冷静に鑑賞して感動するよりも、「王蟲の手はスパゲッティだ」と思ってる方が、作品の感じ方としてはなんとなく正しいような気もする。宮崎作品の何が優れているかと言えば、テーマやドラマではなく、画面を通して伝わってくる肌感覚なんじゃないかと思う。たとえば、大ババ様の作る妙なスープには画面から匂いを嗅ぎ取れるし、バカガラスのコンテナに満ちた炎には熱さを感じられる。テトの頬ずりにはくすぐったさを感じる。自然との共生という、ある意味使い古されたテーマが観念的なものに陥らないのは、画面を通した五感への刺激、つまり肉体性がその裏にあるからなのではないか。久々に『ナウシカ』を観ながらそんなことをぼんやり考えていた。

 ところで、映画『ナウシカ』は観てない人を探すのが難しいくらい超メジャーだが、原作『ナウシカ』はそれほど浸透していないように思う。全7巻の大作で、実は映画はこのうち2巻途中までの内容を、それも細部を変えてまとめたものなのである。つまり、5巻以上にわたって、映画の“続編”があるのだ。

 紹介したらキリがないが、とにかく映画が全てだと思っていた人はぶっ飛ぶくらいの衝撃を受けるはず。特に作品のなかで最重要テーマである腐海の設定が、映画版と原作版では180度真逆であるのが面白い。宮崎駿は本当はこう描きたかったのかという、彼の本音や悔しさみたいなものが感じ取れて、再度映画版を観るとまた違った見え方になる。

 全然関係ないんだけど、僕の友人に「子供はジブリ作品で育てる」と宣言していた女の子がいる。彼女は数年前にママになったのだが、果たして実践しているのだろうか。娘がナウシカみたいに育ったらどうなんだろう。すごい優しい子なのは嬉しいけど、家中虫だらけになったりしたらちょっとやだ。

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