ティーンエイジと
ボブ・ディラン

 先日、みうらじゅん原作・田口トモロヲ監督の映画『色即ぜねれいしょん』を見た。みうら・田口タッグが以前に撮った『アイデン&ティティ』もそうだったように、『色即ぜねれいしょん』でもボブ・ディランの曲が劇中至るところで使われていた。

 主人公の男子高校生は、ディランを聞いてロックに目覚め、夢を描き、彼の音楽から人生に関するヒントと愛にまつわる洞察を得る。主演の渡辺大知(黒猫チェルシー)は、ピュアで危うい「少年以上青年未満」な感じを絶妙なバランスで演じていて、素晴らしい存在感を放っていた。だがそれ以上に、作品全体から原作者みうらじゅんの“ディラン愛”が感じられて、僕としてはそっちの方がジーンときたかもしれない。見終わった後、無性にボブ・ディランが聞きたくなって、久しぶりに『追憶のハイウェイ61』をかけた。1965年のアルバムである。

 1曲目が<Like A Rolling Stone>。僕はこの曲を最初に知ったのは、オリジナルではなくて、ローリングストーンズのカヴァーの方だった。中学生の頃だったと思う。僕はてっきりストーンズの曲だと勘違いして(だって“Rolling Stone”だし)、ディランのオリジナルを聞いたのはずっと後になってからだった。ちなみにストーンズ版は、「やはり」というか「さすが」というか、ものすごくかっこよく、僕は未だに<Like A Rolling Stone>というとストーンズの方を思い浮かべてしまう。

 いずれにせよ、巨大な曲である。何度聞いても心の中に何かを残していく。映画『アイデン&ティティ』ではこの曲がラストを飾っていた。ただ、判官贔屓というわけではないが、僕としてはこの音楽史に残る1曲目よりも、その陰に隠れた残りの8曲の方を推したい。<悲しみは果てしなく>や<廃墟の街>などは、ディランの優しさが沁みるいい曲だ。表題曲の<追憶のハイウェイ61>もかっこいい。アルバムとしてトータルで見ると、この時期のディランの作品の中では、個人的には『Bringing It All Back Home』や『Blonde on Blonde』の方が洗練されていて好きなのだが、本作のジャリッとした苦さも捨てがたい。

 しかし、なぜボブ・ディランは“ロック”なのか。本作がリリースされた60年代中盤、ディランはフォークギターをエレキギターに持ち替え、バンドスタイルへと移行し、サウンド面でのロック色を強めていった。だがそれ以前からすでに、彼の音楽は紛れもなく「ロック」だった。フォークギターとハーモニカだけの弾き語りだった初期の頃からずっと。

 ディランの“ロック”とは、僕が思うに、彼の放つ言葉の力である。彼の綴る歌詞には、ハードロックのサウンドに負けないほどの強さがある。独自のボキャブラリー、独自のメタファー。彼にしか紡げない文体があり、彼の目を通すことでしか見られない世界がある。ディランの歌詞は、たとえ音楽がなくても言葉だけで自立することができるのだ。彼が歌手であると同時に「詩人」と呼ばれる所以である。

 だが、詩であるがゆえに、ディランの言葉を受け止めるには、それ相応の感性や教養というものが必要なのではないか、とも思う。少なくとも10代の頃の僕は、『色即ぜねれいしょん』の主人公のようにはディランの音楽を愛せてはいなかった。ビートルズの方がずっと近い存在だった。

 実は大人になった今でも、ボブ・ディランとビートルズとを比べると、同じ「好き」でも質的に大きな違いがある。ビートルズは文字通り「好き」なのだ。彼らの音楽と僕の自我は、もはや境界線がないくらいに混ざり合っており、聞いていると安心して思わず眠くなる。

 一方、ディランは「憧れ」なのである。彼のスタイル、とりわけあの詩には、一度触れたら影響を受けずにはいられないインパクトがある。真似してみたくなるのだ。ディランの音楽は、安心などではなく、むしろある種の緊張感を与えてくる。ビートルズが家だとしたら、ディランはその家の窓から見える、遥か彼方にそびえ立つ山の頂だ。「いつか自分も登って、その頂上から見える景色を、この目で見てみたい」と思わせる山なのである。
 

ローリング・ストーンズによる<Like A Rolling Stone>

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