LITTLE FEAT 『DIXIE CHICKEN』

 震災から2ヶ月が経ちました。あれからたった2ヶ月しか経っていないことに驚かされます。もっと長い時間が経ったように感じます。

 一部の地域を除いて、首都圏の生活は以前のリズムをほとんど取り戻したといっていいでしょう。街の明るさが減ったくらいで、電車もダイヤ通りに走っているし、スーパーにもコンビニにも商品が戻ってきました。テレビのニュースでも、震災以外の情報が占める割合が増えてきています。

 しかし、2ヶ月前のあのショックというものは、依然として気持ちの底の方に、生の形のまま残っています。「以前とは違う」という感覚が、木の根のようにがっちりと食いついて離れません。自分の身体の外と内、どっちの「現実」が本当なのか、まだ混乱しています。

 ただ、今にして思うのは、結局僕がこの2ヶ月の間にやったことというのは、ただなす術もなく混乱していただけではないかという後ろめたさです。節電をして、募金をして、自分からニュースを掻き集めて関心を持ち続ける。それが僕にできた精一杯だったと思う一方で、例えばその気になればボランティアに行けたでしょうし、もっと直接的で具体的なアクションを起こせたのではないかとも思のです。節電も募金も、単なる言い訳なんじゃないかとさえ思うこともあります。

 2ヶ月前から続くこのショックというリアルと、避難生活や原発や風評被害というリアル。僕の身体の外と内の2つのリアルには、明らかに温度や質に差があるのです。

 そんななかで、先日ネットのニュースで精神科医の香山リカの文章を読みました。

 「今回のような災害が起きると、人は被災者に対して深く同情すると同時に、心のどこかで『自分でなくて良かった』と感じる。多くの人は、そのように感じることに対して罪悪感を持ってしまう。しかし、それは『分離』という、心が持つ重要な防衛機能である。被災者に対して被害を受けていない人間が無理に同化しようとすれば、そこから抑鬱状態に陥る可能性もある。そうならないためにも『自分でなくて良かった』と感じることは正しい反応だし、その感覚を否定する必要はない」と語っていました。僕はけっこうこの記事に救われました。

被災していない人にも「共感疲労」という苦しみがある
(ダイヤモンド・オンライン)

 「罪悪感」や「後ろめたさ」って、けっこう多くの人が感じてるんじゃないかと思います。震災直後の「震災ハイ」状態が落ち着いてきたから余計に。でも、香山リカが言うように、それをあまりにシリアスに感じ過ぎてしまってはいけない。僕らにできる一番大事なことは、やっぱり毎日の生活をしっかり送ることだと思うので(3/17のエントリー)、精神のバランスを崩してしまっては元も子もありません。それに、そもそも直接被害を受けていない人間が被災者に同化できるわけないし、またその必要もないと思います。

 自分の無力さに対して絶望しないことって、難しいですね。実際、1人の力ってホントに小さいですから。ただ僕が思うのは、自分の無力さを「自覚」することと、そのことに「絶望」してしまうことは、似ているように見えて大きな違いがあるんじゃないかということです。

 「自分は何もできない」という事実にふさぎ込んでしまうのは簡単ですが、それは被災者のことを考えているように見えて、自分にだけ目を向けているに過ぎません。直接的被災者ではない人間に今(そしてこれから)求められるのは、被災者に気持ちを(たとえ誤解や勘違いが含まれていても)寄り添わせることです。そして、自分の生活を淡々と、粛々と、営んでいくこと。自分の無力さを受け入れることは、そのための第一歩であり、必要な手順なんじゃないかと思います。

 ・・・どうも観念的な話ばかりになってしまいました。最後に思いっきり観念的で個人的なことなことを一つ。

 震災が起きてからしばらく音楽が聞けませんでした。かけてもなかなか耳に入ってきませんでした。しかし1ヶ月くらい経った頃でしょうか、テレビをつけていたらリトル・フィートの「ディキシー・チキン」が流れたんです(なんかのVTRのBGMとして使われてました)。その時、ようやく久しぶりに「音楽を聞く」という感覚を味わいました。

 リトル・フィートは70年代に活躍したアメリカのバンドです。ブルースやゴスペルやR&Bといった、アメリカ南部の音楽をルーツに持つ、かなり濃いめ・渋めの音を鳴らすバンドなのですが、そのなんとも土っぽい匂いがとても心地良かった。国も時代も違うのに、しかも耳を傾けているこちらの状況も決して普通とはいえない状態なのに、なぜか自然にフィットしてしまうのですから、やっぱり音楽って力がありますね。この曲をタイトルに冠したアルバム『ディキシー・チキン』(1973年)は、もう何年も聞いていなかったアルバムだったのですが、以来繰り返しかけるようになりました。


LITTLE FEAT「DIXIE CHICKEN」

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